晩秋のコオロギ
「むざんやな 兜の下の きりぎりす」
芭蕉の有名な句です。敗北した武将の兜の下で鳴いているきりぎりすの鳴き声が寂しさを感じさせる、という意味です。きりぎりすは秋の季語ですが、実際には夏の虫のため、ここで詠われているきりぎりすとはコオロギのことだとされています。
エンマコオロギやオカメコオロギなど何種類かいる身近なコオロギのなかで、朝晩冷え込むような季節でもまだ鳴いているのがツヅレサセコオロギです。ひだまりの枯れかけた草むらでかぼそく「りー…、りー…」と、鳴きます。昔の人はこの声を聞くと秋の終わりを感じ、「肩させ、裾させ、つづれさせ」と聞きなし、衣類の手入れ(つづれ)など冬支度に入りました。
そんなツヅレサセコオロギですが、意外に気の強いところがあり、中国には「闘蟀(とうしつ)」といって、オス同士を戦わせる娯楽があります。飼育に秘伝の餌をつかったり、容器に凝ってみたり。清朝最後の皇帝溥儀(ふぎ)も愛用の飼育容器を持っていたといいます。日本ではさまざまな文化を中国から取り入れてきましたが、なぜかこういった遊びは流行(はや)らなかったようです。虫の声に風情や季節を感じるのが日本文化の特徴でしょうか。
みどりと環境の情報館
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